アメリカの黒人問題は奴隷貿易に始り、奴隷制度に拠って立った新興国アメリカの経済建設、南北戦争、そしてその間を縫って続けられてきたほとんど絶望的な奴隷自身による自己解放の歴史である。それはアメリカの社会心理の基底に居座っており今日に続く人種差別の歴史であり現実である。その意味で「アメリカ黒人の歴史」は振り返って一望できるような歴史ではなく、むしろ現実のさなかにこそ存在する課題である。それは船底に積み込まれた貿易商品であり、法律上も「動産」にすぎなかった被支配人種の人間性の復活運動として独特の性格を持っている。黒人の開放をアメリカの独立革命に続く第二の革命と位置づける史観は注目すべきである。
問題がこのように複雑かつ多岐にわたる以上、そしてこの「白人の重荷」をめぐる観点がいまだ不定である以上、新書一冊で「アメリカ黒人の歴史」を書き上げるのは至難の業である。しかし読者としては簡便な一冊も欲しい。本書はそのような需要に応える十分に目配りの利いた一冊だと思う。アメリカの黒人による公民権闘争をわれわれの多くはアメリカの国内問題として断片的な新聞記事として読んでいたにすぎない。そこに現われていた運動家たちの勇気には今さらながら驚かざるをえない。法律を捻じ曲げ、暴徒を放置して彼らに刃向かう反動勢力の抵抗も執拗でまた凄まじい。そこに9・11以降のアメリカのユニラテラリズムを見る思いをする読者も少なくないことだろう。