本書によって、米国を始めとする英語圏における90年代以降に蓄積されてきたpopular musicを対象にした音楽学や民族音楽学の研究成果がようやく反映されたアメリカ音楽史が手頃なフォーマットで掴めるようになった。本書は日本国内ではかなり衝撃的な受けてめ方をされるであろうと思われるが、いまやアメリカの音楽史学からみれば「最新の定説」とでもいえる論旨が多い。本書はミュージック・ファンが書き、読むような本ではない。そうではなく、音楽と音楽の生産・流通・消費、そして音楽のどのように歴史化されてきたかという総体を政治史的・文化史的な眼差しで捉え直そうとする試みである。こうした視座さえ前もって了解していれば、スリリングに読めるはずである。そして巻末の文献紹介エッセイだけでも、本書を買うメリットはある。ただ、ゴスペルについてに言及は皆無に均しく、著者もその事を断わっている。その理由は、何よりも、アメリカの宗教事情と黒人表現文化の双方の研究の膨大さに対して著者が安易に手が出せない現実があるからであろう。