個人的に、本書の興味深い点は、門戸開放以降のアメリカの太平洋政策を、アメリカの観点から、しかもその失敗について、勢力範囲というコンセプトの元、解説している点である。東アジア情勢(日本から見れば大陸政策)について、日本人による日本人の観点から、軍部の独走と大東亜戦争の失敗について解説している書物は多く見かけるが、アメリカの側からアメリカの失敗について述べている書物は(少なくても日本では)珍しいと思う。
門戸開放という道徳的なスローガンの下、本来東アジアの平和は日本、ロシア、中国の勢力を均衡されることにより成り立つのにも関らず、道徳の名の下に、日本を過剰に敵視し、中国を過剰に遇し、後のことを考えずに、日本を屈服させたことにより、自ら東アジアで中国、ロシアに対抗する勢力とならざるを得なくなった、アメリカの浅はかさを批判している。
また、有名なX論文「ソヴィエト行動の源泉」も収録されている。本論文は、当時アメリカで主張されていた、アメリカの攻撃的な行動によってソ連を非妥協的な行動に押しやったのではないか、という論議に対し、そういった自虐的な認識を否定し、ソ連の行動は、アメリカの行動の結果によるものではなく、アメリカの民主主義とは根本的に異なる、ソ連の根本的な性質に依存するものである為、ソ連の善意に対する幻想を捨て、長期的に対抗していくべき、と主張している。この考えに基いて、冷戦の中心となる封じ込め(適切な訳ではない、という批判が多い)政策が遂行されるに至った。一方、指導者がその競争者から地位を勝ち取る為に、将来大衆まで降りてくることが考えられるが、それは党の規律を破壊し、ソ連国家自体を破壊する結果となる、とゴルバチョフ以降のソ連を性格に予測している。
ケナンの著書は、後付け的な理屈を超え、歴史的洞察に裏打ちされた予言の書である、とさえ感じる。昔の本だからこそ、その後の歴史の展望を知っている我々が、その洞察がいかに適切であったか分かり、時代に関係のない普遍的な歴史的洞察を感じることが出来る。
よく言われるように、翻訳はやはり読みにくいように感じる。第3部の「ウォルグリーン講演の回想」が、前半部分のまとめ(要約)のようになっており、ここを読んでから第1部を読んだ方がイメージがわきやすいかもしれない。