この映画を見終わった後、静かな温かい気分になった。
この映画には、現代アメリカ社会の暗部が描かれていると言われることがあるが、
果たしてそうだろうか。
そうではなくて、この映画は、社会の建前と個人の願望の間に厳然として存在す
る深いギャップを、見る者に真正面から突きつけているのではないだろうか。
人間の行動は、社会、家族、人間関係のいずれにおいても、そもそもが個々のい
ろんな欲望の上に成り立っている。が、社会は秩序を保つために、そこに道徳的縛
りを与えている。しかし、それにそのまま従うのは、時に本能的な欲求や自由を強
烈に抑えなければいけないつらさと一体である。
理想とされる、型にはまった建前の家族を演じること、建前の夫や父や母や軍人
を演じること、それが個々の心情と一致するなら何の問題もないが、そうでない場
面が必ず出てくると思う。そうしたとき、その演技を苦痛の上で続けるのか、また
は、家族などの共同体を犠牲にしても、無理をした自分をある程度解放するのかと
いうのは、人間にとってある程度普遍的な人生の大きな問題であると思う。
社会を構成する多数派が、この作品の中の登場人物たちのような選択をしていけ
ば社会は揺らいでいくだろう。しかし、不本意な、型にはまった建前を、自己を抑
圧して遂行し続けることの結果は、隣家の退役軍人の父親に象徴されている。
最後、この主人公は、感謝の言葉とこれまでの自分の人生は幸せだったと言って
去るが、これは恐らく主人公の真意であろう。しかも、ポイントは、この言葉の中
に、自己を解放した後に生き生きと生活した自分自身に対して満たされた思いが感
じられること、また、解放する前に曲がりなりにも守ってきた家族や共同体という
ものにも温かい言葉を残していることの両方が含まれている点だと思う。
人それぞれいろんな人生観があると思うが、自分は、この主人公の最後の言葉に
は大きな感動を覚えた。