日本国内ではユカタン半島と言えばマヤ文明のイメージが強く、「マヤ文明の消滅とともにとマヤ人も消えた」と考える人も少なくないのではないか。本書は近代から現代にかけて、マヤ人がスペイン人や米国人の抑圧にさらされながらも今日まで歩んできた歴史が、マヤ人の側から叙述されている。例えば、カネクというユカタン史に登場する著名な先住民は、幼い時から教会で学んだ知識人であったと一般的に考えられている。しかし、反乱を起こした疑いで逮捕された際にとられた調書には「カネクは非識字者であったので、自身の署名ができなかった。」と記述されている。史実にも立ち位置によってあらゆる可能性が発生し、そこから新しい歴史像を作り上げることができる。本書はユカタン史からメキシコ史の重層性を再認識できる良書である。