☆【アメリカ・ニューシネマ】系列の作品にしては、かなり毛色が違う、注目に値すべきセンセーショナルな問題作。ベトナム戦争は「ブラウン管の中の戦争」とも呼ばれた。当時、テレビのニュース番組でベトナム戦争が毎日のように報道されたからである。メディア論の第一人者マーシャル・マクルーハンは、テレビは一般に思われているように視聴者の思考を麻痺させるホットなメディアではなく、むしろ視聴者を冷静にさせるクールなメディアであると説いた。原題の「メディアム・クール」は、このマーシャル・マクルーハンの「テレビはクールなメディア」という説からとられている。エドワード・オールビーの舞台劇を映画化したマイク・ニコルズ監督の秀作『バージニア・ウルフなんかこわくない』でアカデミー撮影賞を受賞した名カメラマン、ハスケル・ウェクスラーが監督・脚本・撮影の三役を見事にこなし、卓越した秀逸な力量を発揮。自由の国と呼ばれながら、ダーティな腐敗堕落にまみれたアメリカ合衆国の表裏一体な恥部を知るうえでも、資料的価値の高い、リアルな実録劇とも言える。テレビ局のニュースカメラマン、ジョー・カッセリス(ロバート・フォスター)は撮影担当で、友人の録音係ガス(ピーター・ボナーズ)と一緒にコンビを組んで日常の些細なニュースや事件を撮るのが仕事。特にオープニングの生々しい事故現場での主観的なクローズアップ描写の密着的な構図とショットは冷たく非情なムードを醸成しており、この作品の暗示性を象徴している。舞台は1968年のシカゴであるが、内容的に主人公ジョーが当時の目まぐるしい激動のアメリカ社会の酷列な現場をカメラにおさめる様子を通して様々な歴史的事件を断片的に浮かび上がらせるドキュメンタリー・タッチのスタイル〈シネマ・ヴェルテ風〉の手法を駆使。このようにハスケル・ウェクスラー監督は記録的に、いわば実験的な感覚の演出を試みながら報道倫理の真実と嘘、マスコミ&メディアのモラルやタブーの狭間をクールな視点から見つめ、黒人差別問題や公民権運動の大デモンストレーション、ベトナム戦争、市長ディリー怒号と憤慨のシーン、ケネディ大統領衝撃の暗殺事件、本編のスタッフが実際に危険な潜入撮影を行った!大規模な民主党大会での反戦隊と警官隊との衝突など、現実の出来事をニュース・フィルム形式で、ジョーを含めた登場人物たちが繰り広げるドラマを織り混ぜ、辛辣な風刺や批判を込めて内幕暴露的に描いている。そこに展開される複雑な人間模様や鋭い観察眼には目から鱗が落ちる程の説得力と切迫感がみなぎっている。日本映画に人気刑事ドラマ『太陽にほえろ!』の山さん役で有名な露口茂さんがレポーターに扮した今村昌平監督作品『人間蒸発』があるが、当時のアメリカ映画でレポーターの取材場面は、きわめて珍しく、大変貴重。全体的に独立系の低予算映画らしい、ざっくばらんな箇所も目立つし、構成的にルーズな部分もあり、因縁めいた皮肉たっぷりの、ご都合主義な結末も少し引っかかるが、よくぞこれだけ異例に近い反米的な題材を扱いながらアメリカ当局に睨まれなかったモノだと妙な所で感心させられた。というよりは、驚愕の形容が一番ふさわしい。後年は、いぶし銀のB級スターとして精力的に活躍している一発屋?の個性派ロバート・フォスターが、あくまでも真実を追い求め、決して信念を曲げない、反骨のTVカメラマン役ジョー・カッセリスを好演。彼の代表作であり、俳優人生?最高のパフォーマンスを披露してくれるのも見逃せない☆。