アメリカ人が口ずさんできた数々の歌の奥深くに、日本人にはうかがい知れない歴史や文化が刻まれていたことを解明するノンフィクションです。
4つの章立ては以下の通り。
第一章:掘削機との穴掘り競争に挑んだ黒人ジョン・ヘンリーの歌の由来と、その他にも数字の「9」が不運と悲しみをたたえたものとして歌いこまれた楽曲の謎。
第二章:殺人や自殺を歌いこんだ特異な楽曲マーダー・バラッドの存在理由。
第三章:南部から北部へと奴隷黒人を逃がす秘密ルート「地下鉄道」と、二グロ・スピリチュアルとの関係。
第四章:カントリー&ウエスタンが歌うアメリカの女性像の変遷を、ヒラリー・クリントンの逸話などを絡めて描く。
本書に取り上げられている楽曲の多くは、ロックやポップスに比べて私を含めて日本人にはなじみの少ないものばかりでしょう。
しかし私は映画やTVドラマを通じて見聞きしてきたアメリカの習俗や文化の背景が以前よりも鮮明に見えてきたように感じ、大きな知的興奮を味わいながら本書を読みました。
例えば、ドラマ『名探偵モンク』には科学技術を駆使するFBIとおじさん探偵モンクが対決するエピソードがありますが、その中で第一章のジョン・ヘンリーの歌が登場していました。
『ターミネーター:サラ・コナー クロニクルズ』でも人間性を植え込まれた人造人間がジョン・ヘンリーと呼ばれていました。
本書を読むと、どちらのドラマのエピソードもジョン・ヘンリーが象徴する反機械主義が中心主題であったことが了解できた気がします。
また、セックススキャンダルで謝罪会見をする政治家の夫のかたわらに黙って耐え忍ぶ妻の立ち姿をアメリカドラマで目にしますが、第四章を読むとそうした妻たちの心情について理解できたように思います。
著者が精力的に膨大な資料を渉猟し、現地にも丹念に足を運んだ跡が見て取れる、アメリカ文化論の労作といえる一冊です。