イスラエルの政治経済の専門家でもなく、また米国の政治経済の専門家でもない、英米のユダヤ人史を専門とする著者が、ユダヤ人というエスニシティ属性をキーワードに、文献のみによって整理してまとめた、世界情勢音痴な日本人向けのレポートである。
たとえば、米国の最強ユダヤ系ロビー団体であるAIPACにも取材ひとつ行わず、実体以上におどろおどろしげに語ってみせるのみである。著者は、AIPACにコンタクトしたことがあるのだろうか?
いまどき大学に勤務する"学者"だからといって、現代のまさに旬のテーマを追いながら、ジャーナリストのような取材を行うというリスクを回避し、安楽椅子に座ったまま本を書くという姿勢、そしてそんな著者に本を書かせる出版社には失望を隠せない。これくらいの内容なら、日本人の大学生でも英語が堪能でさえあれば、文献を駆使してまとめあげることも決して不可能ではないのではないか。
この本の内容をそのまま英語にして対外的に発表できるか、という観点からみれば、まず不可能だろう。内容に独創性のかけらもないからだ。ただ単に、情報を並べて書いているだけで、深みのある分析など皆無である。読者のもつ「なぜ」にきちんと答えているとはいえない。
ユダヤ人史を専門にしながら、これほどユダヤ的な思考方法からかけ離れた本も、反ユダヤ本を除けばふつう存在しないだろう。ある意味において、世界に通用しない、これが"日本の学問"の現状なのだろう。
正直いって、読んでみてがっかりしたが、この本が文庫化されたという。まったくもって驚きだ。