フランスの貴族であったトクヴィル(1805-1859)は、フランス政府からアメリカの刑務所制度を研究するよう命じられて渡米し、その時の見聞とリサーチをもとに政治学の古典である本書を著しました。彼の思いの中には、革命に失敗し悲惨な爪痕を残した祖国フランスのために、革命に成功し民主政治を確立しつつあるアメリカから何かを学びたいという思いがありました。彼がアメリカに滞在したのは、まさにジャクソニアン・デモクラシーの時代、アメリカが欧州風の東部中心から広大な西部へと膨張しつつあり、普通の人の政治的重要性が質量共に増大した時代でした。彼はそのようなアメリカを観察しながら、民主主義の持つ強さと弱さを正確に分析叙述します。
本書の中で特に印象深い叙述を上げるならば、一つはインディアンについての精緻で同情溢れた視点です。今から50年ほど前までは、アメリカの進歩的と言われる知識人の中でもインディアンについて同情心を持っていた人はほんの僅かしかいませんでした。これは彼がフランス人だからこそ持ち得た視点でしょう。
もう一つは「多数者の専制」という民主主義最大の弱点を指摘したことです。民主主義において多数者は自らの意志を実現することができますが、それが少数者を圧迫し絶望へ追い込むようなことになれば専制となり、民主政治そのものが崩壊するというのです。
近年、ますますポピュリズムと劇場化の度を深める日本で、市民としての責任を正しく果たすためにも、トクヴィルの言葉に耳を傾けたいものです。