アメリカの街を経巡る「あなた」が出遭った人々の姿を描いた物語群です。ネイティブアメリカンの営むカジノ、移住当初の生活様式を守るアーミッシュ、砂漠の中西部に生まれた幼い子供…。万華鏡社会アメリカの息遣いを不可思議な二人称で切り取っていきます。
多和田葉子が二人称で綴る作品はこれが初めてではないということですが、物語の中心点にいるはずの「あなた」が、「あなた」と呼称されつづけることで、読者である私はその中心に何度入り込もうとしても弾かれてしまう思いを抱き続けました。まるで磁石の同極同士が反発しあうような感覚です。私の視点が「あなた」の外側に位置づけられることを強いられるため、頁を繰り続ける間、常にこの「あなた」の斜め上空あたりから物語を眺め続けることになるのです。
最終章である「無灯運転」を例外として、この物語に出てくる人々の暮らしぶりは多種多様ではあっても決して浮世離れしたようなところはありません。多和田葉子自身がアメリカで実際に出遭った人々のことを、二人称形式で綴ってみることで半分ノンフィクション、半分フィクションといった彩りの小説に仕上げたといった印象を与えます。事実こうした経緯によって仕立てられた小説かどうかは分かりませんが。
主人公の「あなた」が、アメリカにおいては主張の欠如ととられかねないほどの、日本人独特の遠慮や自重を常に見せるあたりは、奇妙に現実味があります。読んでいて決まりの悪さを感じ、思わず苦笑することしきりでした。
多和田葉子独特の物語展開自体もいつもどおり健在で、つかみどころのない、どこへともあてなくさまよい続け、果てることのない旅につきあうことになります。現実と非現実との狭間で心が揺れる思いを味わう、そんな小説でした。