エリクソンといえば、『黒い時計の旅』、『Xのアーチ』、『真夜中に海がやってきた』といった歴史や空間を飛び越えるような作品が特徴でしたが、この小説の舞台はほぼLAで、歴史をとびこえるようなアクロバティックな展開もないです。あまり売れない小説家であり映画評論家でもある主人公の一人称で進む話は私小説的な趣もあり、前半の女性遍歴の話のあたりなんかはブコウスキーの小説に近い感覚もあります。
ただ、やむことなく雨が降り続けるLAの街の描写や、主人公がでっち上げた架空の映画『マーラーの死』が徐々に現実のものとして現れ出てくる様子なんかは、エリクソンを語るときによく使われる「幻視力」を感じさせるもので、エリクソンの小説ならではの魅力です。また、「愛」へのこだわりというのもエリクソン作品に共通した部分。以前の作品ほど「運命的」ではありませんが、相変わらず官能的な愛が描かれます。
個人的には『黒い時計の旅』に代表されるスケール感のある作品のほうが好きですが、自伝的な要素も数多く混じっているであろうこの作品は、今までの作品にはなかったエリクソンのユーモアや内面とかを感じさせる作品です。