学会ではひろく定説化していても、一般にはほとんど知られていないということは多々ある。これを平易に一般読者に伝えるのが新書本来の役割としてあると思うのだが、まさに本書はその期待を充足させてくれる。
豊富な内容が各ページに凝縮されており、しかも瑞々しい知性にあふれている。稀代の名著といえると思います。
皇祖神(国家神)というとアマテラスしか念頭にないのが普通と思うが、それはとんでもない話で、じつはその前にタカミムスヒという外来の神があった!
『古事記』や『日本書紀』を読めば、この神様の名はちゃんと登場しています。それどころか、有名な天孫降臨においてはむしろ主導的です。しかし従来、多くの解説書ではその重要性に触れることがほとんどありませんでした(学界では周知のようです)。
まさに、目からうろこの1冊です。日本の歴史と文化に関心のある方にひろくおススメします。あと、神野志隆光氏の『古事記と日本書紀』(講談社現代新書)との読み比べをされるとよいでしょう。
さらには古代史の通説を形成してきた直木孝次郎氏の『直木孝次郎古代を語る4 伊勢神宮と古代の神々』(吉川弘文館)を併読されますと、通説の更新過程が見えてきて興味深いでしょう。
【追記2010.3.18】最近、といっても昨年の11月ですが、大山誠一著『天孫降臨の夢―藤原不比等のプロジェクト』という本がNHKブックスから出ました。ここでもタカミムスヒが大きく取り上げられていますが、もっぱら不比等の政治の道具と位置付けられています。溝口氏の著書とは真逆の印象を受けましたが、比較するのも読書の醍醐味かも知れません。
【追記2010.5.23】レビュー後も何度も読み返しました。最高神タカミムスヒにくわえてアマテラスが天武天皇のころに新たに立てられたわけですが、数多ある神々のなかで、なぜ、アマテラスだったのかについて著者は「今のところ手掛かりをもっていない」と吐露しています。その率直さには敬意を表したいですが、物足りなさも感じます。ぜひ続編を…。
【追記2011.3.12】皇祖神を立てるにあたり、なぜアマテラスに白羽の矢が立ったのかについて、最近ちくま新書から出た武澤秀一『伊勢神宮の謎を解く〜アマテラスと天皇の発明』が、溝口睦子氏に敬意を表しつつも根本的な問題点を指摘し、説得力のある刺激的でスリリングな論を展開しています。一読の価値が大いにあるかと思います。とくに本書『アマテラスの誕生』の読者は必読でしょう。