このアルバムは2009年12月に急逝したフジファブリックのフロントマン志村正彦に捧げられたものである。
メレンゲのフロントマンであるクボケンジは本人同士が公言するなど公私ともに志村と唯一親友と呼び合える程の仲であった。
故にこのアルバムには悲しみが溢れている。
だからといって暗いアルバムではない。
悲しみ、空虚感を乗り越え、新しい一歩を踏み出そうという春の息吹きのようなものに満ちている。
それは満点の星空のような、或いは真夏の太陽のようなきらめきではないが、明け方の砂浜が引き潮でキラキラ光るようなきらめきに近い。
彼らの代表作となるかと思われた「
うつし絵」をあえて入れず、楽曲は同じ絵の具で彩ったように、淡いトーンで統一されている。
リズムを強調したギターで始まる「旅人」は「待っていたって救いの使者は来ない」と新しい旅の「旅支度」を始める軽快なロックナンバー。
メレンゲ特有のキラキラ感もどこか虚ろなイントロで始まる「アルカディア」は、いつの日かの再会を信じて送ったメッセージのように感じる。
アイリッシュな民族音楽のような楽しいイントロの「ルゥリィ」も「何から手をつけて良いのか分からない」状況から「新しいおまじない」を見つけるまでの物語だ。
「ムーンライト」はキャッチーなメロディにメレンゲの楽曲の中でも1、2のアレンジの完成度で、今やライブでの新しい定番にもなりつつあるポップナンバー。
「火の鳥」は今、クボが最も伝えたいという歌。
手塚治虫の描くような遠大な宇宙観を通して見るなら1人の人間の命は余りにも儚い。死を迎えることで宇宙の一部に還るのであれば、いつの日にかまた再会できるような気持ちにもなる不思議な楽曲だ。
悲しみの底から生まれたこのアルバムだが、だからこそ何かを失った人が再び歩き出すための力を与えてくれるような気がする。