社会・共産主義という理想が現実の中で単なる一党独裁・官僚主義へと堕していく過程として、ソビエト連邦については20世紀を通じた壮大な社会実験だったと語られることがある。
当大著は一連の社会実験の中で、ソ連という多民族国家が、マルクス主義というイデオロギーという理想の下に、ナショナリズムというイデオロギーとどう取り組んだのかという試みについて特化した一冊だ。初期においては発展史観に基づき、ナショナリズムというイデオロギーを積極的に擁護・育成しようとした段階を経て、現実として発展解消されるべきのイデオロギーが現実として固着していき、結局はロシア民族のナショナリズムに基づき多民族を力で抑圧していく顛末を説得力溢れる数々の文献・証言を駆使し示している。
民族主義の大家としてスターリンが、初期はロシア民族のナショナリズムを積極的に掣肘していたという歴史的事実だけでも、通俗的なスターリンのイメージを十分に覆すものと思われる。
読後、一国社会主義と世界革命・永久革命論の対決は、単なる権力闘争としてではなく一国を持ってしてもなお多民族を統治できない現実を直視したスターリンの転向の証であったのではないかと考えさせられた。