本屋を襲って広辞苑を奪う,という現実ならば一生モノだが
小説の作り話としてはいささか迫力に欠けるイベントからストーリーが始まる.
現在と過去の出来事が交互に展開されるが,
序盤は地味なイベントが細々と羅列され少々退屈である.
中盤からは河崎の病気や,ペット殺しとの関わりで興味を引きつつ物語は最終的な破局を迎える.
この結末自体は予想通りであってストーリー的にはなんら意外なものではない.
意外なのはその見せ方である.
伊坂氏をこの種の仕掛けで読者を驚かせる作家とは考えてもいなかったこともあるが
この手の小説にありがちな窮屈ですっきりしない感覚がなかったため
私自身はこの仕掛にはまったく気づかず十分楽しめた.
またブータンの風習や宗教的背景,河崎のキャラクター,引用のよくわからない格言めいた言い回しも
作品のアクセントになっていて,琴美や椎名が振り回される感じがよく表現されている.
こういう雰囲気を自然に表現するのはけっこう難しいものである.
ただ,このキャラ設定に少々が無理があるように思う.
全体的なストーリーは重苦しい内容であるにも関わらず
河崎や麗子といったデフォルメされたキャラが目立ちすぎている.
他の伊坂作品ではこういったキャラがシリアスな状況でもどこか余裕を感じさせる軽やかな空気感を演出してくれるが
この作品ではサスペンスにスラップスティックを持ち込んだようなチグハグな印象を受けてしまう.
小説の構成で星5つ,雰囲気に3つで,間をとった4つにします.