日本人の書いた小説を避けていた時期がある。「寝る間も惜しんで先を読みたい」とか、ページが僅かになって「もう終ってしまうのか」と感じる作品が見つけられなかったからで、新たに発掘しようという気も起こらなかった。ところが、転勤で通勤時間が長くなったことを継起として、人の薦めや書評欄を頼りに初めての作家の作品に接する機会が増えた。そこで知り合ったのが、垣根涼介とか本書の飯田譲治である。
歳のせいで涙もろくなったのは困りものだが「ユーモア」へのハードルは高く、ましてや人前で声を出して笑うなどということは許されない。ところが、この『アナン、』にはやられてしまった。過去には『プリズンホテル』(浅田次郎)でしか経験のない失態である。そして驚くことに、本書はコメディではなくファンタジーなのだ。「少年の成長記」というと、代表作は『スタンド・バイ・ミー』(キング)であろうが、その他にも『少年時代』(マキャモン)や『ボトムズ』(ランズデール)など海外には秀作が目白押しだ。
『アナン、』の魅力は、登場人物の作りこみの巧みさと日本人らしくない(?)プロットの雄大さだが、それらがセンスの良いユーモアに包まれて小気味のよいテンポで突き進む、そのドライヴ感は海外作品に引けを取らない。多少話ができすぎで「渡りに船!」の調子のよさも無いではないが、全ては主人公アナンが引き起こす奇跡の一部と考えれば納得か・・・。
『少年時代』の前書きでマキャモンは次のように語っている。『わたしたちはいろんな重荷を背負わされる。いい荷もあれば、さほどよくない荷もある』 いじめや自殺のニュースがあとを絶たないきびしいご時世だが、悩める子供たちには、これら洋の東西の秀作を読んで「魔法」を信じ「夢」を語ってほしい、と心から願うばかりである。