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26 人中、25人の方が、「このレビューが参考になった」と投票しています。
5つ星のうち 5.0
本当のアダム・スミス、本当の経済学。,
By けるよ (鹿児島県) - レビューをすべて見る
レビュー対象商品: アダム・スミス―『道徳感情論』と『国富論』の世界 (中公新書) (新書)
なんか読んだことがあるような気がすると思ったら、これは以前、日経新聞の「やさしい経済学」の欄で掲載されていたものの完全版のようなもののようで、 掲載されていた内容は覚えていませんでしたが、アダム・スミスが通常思われて いるようなイメージとは本当は違う、ということを述べてあったような記憶は ありました。 アダム・スミスといえば経済学の祖としてかなり有名であり、「見えざる手」 という言葉は教科書などで一度は目にしたことがあると思います。 主著は『国富論』で、私も読んだことはありませんが、経済において自由放任主義を 主張し、規制はなるべく少なくして、競争によって国を豊かにすることを目指すべきと 言ったとか言わないとか。 この本は、一般に思われているスミスのイメージが、実は単にスミスの主張の一部を 都合よく解釈したものにすぎないことを明らかにしながら、本来のスミスの主張を、 スミスのもう一つの著作である『道徳感情論』から読み解くといった内容のものです。 読んでみて感じるのは、スミスという人が単なる経済学者ではなく、間違いなく偉大な 思想家なのだということです。スミスの根本にあるのは、人間性への深い洞察であり、 人間の本当の幸福とは何であるのかを、社会の状況を踏まえながら突き詰め、 その上で経済のあり方を考えているということです。 スミスは、真の幸福とは心の平静である、といいます。 そして、経済を発展させるのは人間の弱さであり、虚栄心こそがより多くのものを 必要とし、競争により文明を進歩させるのだといいます。 これは、社会の繁栄をもたらす一方で、社会の混乱をも引き起こします。 スミスは、真の社会の繁栄のためには、フェアプレイの精神がなくてはならないとも いいます。 つまり、自由な競争には”徳”が不可欠であるということです。 さらに『国富論』でスミスは、国民の幸福のために、真にあるべき経済を追求しています。 スミスは重商主義政策を批判しますが、それは本来流通手段である貨幣を富と勘違いし、 貿易黒字だけを目的とする政策だからであり、その最も象徴的な出来事が、 アメリカ大陸に対するイギリスの植民地政策でした。 スミスの考える、あるべき経済の姿は、政府や利権を持つ権力者の蓄財のために 大きく歪められていきます。スミスが規制を嫌ったのも、そのような権力側の 恣意的利益誘導による市場の歪みを避けたかったというのもあるようです。 政府や地主層の無知無能による野放図な浪費は、国の富である資本蓄積を妨げ、 一部の資本家の貪欲による競争の規制は、公共の利益を著しく損なうとしてスミスは 厳しく批判しますが、それらの帰結としての戦争が、国民の富をいかに食いつぶして きたかという、スミスの強い憤りがあったように思われます。 そして、さらにスミスの偉大なところは、一国の富だけでなく、あらゆる国々の 富の増進を企図しているところです。市場は人と人を繋ぎ、豊かさを分け合う機能として 捉えており、そのために、自由で公正な経済システムの構築が必要だということです。 本書は新書ですが、その内容は深く、現代の我々に示唆するところはかなり 大きいと思われますが、一度読んだだけではその全容は掴めません。 じっくりと考えながら、何度も読み返す必要のある本だと思います。 もちろん、スミスの著作を読むのがいいのでしょうが、それはかなり大変ですし、 この本からでも十分得るところは大きく、またこのような本の存在意義でも あるわけです。 真の経済学とは何かを考えるための、とても有意義な本だと思います。
7 人中、7人の方が、「このレビューが参考になった」と投票しています。
5つ星のうち 5.0
市場原理の前提は、競争に参加している人々にモラルがあることである,
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レビュー対象商品: アダム・スミス―『道徳感情論』と『国富論』の世界 (中公新書) (新書)
「諸個人における財産形成の野心によって、市場は拡大し、資本は増大し、その結果、社会が繁栄するp.271」「文明が進歩し、人間が豊かになるのは、富に対する人間の野心があるからである。・・虚栄心を持つことによって、人間は、勤勉に働き、技能を磨き、収入を節約する。・・このようにして経済が発展し、文明社会が形成されるp.87」しかし「財産形成の野心や競争は正義感によって制御されなければならない。制御されない野心や競争は社会の秩序を乱し、結果として、社会の繁栄を妨げることになる。P.271」「フェア・プレイのルールを守ること、・・・正義感によって御された野心、および、そのもとで行われる競争だけが社会の秩序と繁栄をもたらすp.101」道徳感情論と国富論の内容をそのまま書き出しただけの記述が大半を占める本であるが、なにせこの二つの著作は大部で、展開されている議論もまどろっこしく、我々凡人にはこのような図入りの解説本が無ければ内容を理解することは難しい。内容は地味な本だが、「個人は、社会から切り離された孤立的存在ではなく、・・社会的存在としての個人なのであり、・・胸中の公平な観察者の是認という制約用件のもとで、自分の経済的利益を最大にするように行動するp.272。」つまりスミスは個人はアトム(原子)のような存在ではなくモラル・社会性があることを前提にして市場原理を考えていたことを一般人にも理解できるようにしたという点で画期的な本。つまりモラル無き企業人がはびこる現代にはスミスの市場原理は適用できないということである。
27 人中、23人の方が、「このレビューが参考になった」と投票しています。
5つ星のうち 5.0
「道徳」と「経済」で一回ずつの「見えざる手」,
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レビュー対象商品: アダム・スミス―『道徳感情論』と『国富論』の世界 (中公新書) (新書)
「見えざる手」と言う余りにも有名な表現のため、「アダム・スミス=国富論=市場原理主義の教祖」と言うイメージがあるが、彼のもう一つの著書「道徳感情論」を考察する事によってスミスを再評価しようとした意欲作。経済のみの専門家と思っていたスミスが大学で倫理学の講座を持っていたのも意外だったが、「道徳感情論」における倫理観の考察に基づいて「国富論」が書かれている点にも驚いた。冒頭で当時のイギリスの社会状況が紹介されるが、それが現代の日本に似ている点も興味を惹く。スミスは人々の「胸中の公正な観察者」を信じていたようである。社会の秩序が保たれているのも、法律などの規定だけではなく、社会を構成する人々の「胸中の観察者」の総和が均衡を保っていると考える。まず道徳面で「見えざる手」が働いていると言う考えなのだ。そしてスミスは"幸福"を「心の平静」と捉え、いたずらに富や地位の向上を図っても「心の平静」は得られないとする。ただし、「富の最低水準」と言う概念を設け、この水準以下の層では幸福は極端に低下すると論じる。経済の発展の意義は、この貧困層の数の低減である。だが、前述の通り、富や地位の向上の前後で幸福の程度に大差は無いので、向上を目指す「弱い人」は騙される事になる。しかし、この「欺瞞」が「見えざる手」によって社会・経済の発展の原動力になるとする。そして、向上のための競争がフェアー・プレーの下で行なわれると言う前提がキー・ポイントと主張する。現代人には耳の痛い話である。これらの思想をベースに「国富論」が詳解されるが、両著で「見えざる手」と言う表現が一回ずつしか出て来ないと言うのも面白い。 競争原理を打ち出した当初から、公正性を重視している点に予見性を感じる。アダム・スミスの思想の真価に別角度で光を当てた優れた啓蒙書。
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