この本の原書は Spencer Wells: The Journey of Man: A Genetic Odyssey (2002)で,この本は遺伝学的人類史の標準的な解説書として著名なものである.Oxford のサイクス教授はこの本の出た後に アダムの呪い を書いたが,この方は出来がよくなく,大したことを教えてくれない.一方ウェルズの本は,まずアフリカで出来上がった現代人が約6万年前にアフリカから出てあっと言う間にオーストラリアまでひろがり,約2万5千年前には北アジアから南北アメリカおよびヨーロッパに到着し,ヨーロッパでは Neanderthal 人を絶滅に追いやる現代人の経歴を主として男性が持つ Y 染色体上の遺伝子マーカーとその年代を手がかりに描き切る.これはまさに名著である.しかし日本語版は折角のこの本のよさを伝えてくれない.多分訳者が文科系で,理科が苦手なのだろう,絶対年代測定法のあたりは惨憺たる有様.その結果全体が読みづらいし,索引や参考文献もオミットされ,なんと訳者あとがきさえない.この責任は出版社が負うべきだろう.つまり本物の学術書をきわものと勘違いしたのだ.残念この上ない.