この映画の原作は、アガサが生み出した人気キャラの一つ、トミーとタペンス物の長編全四作のうちの三作目、アガサ78歳時に出版された「親指のうずき」であり、ドラマ化されるのは、一作目のイギリス製テレビ・ドラマ「秘密機関」に次いで、二つ目となる。
さすがのアガサも、晩年は、作品によっては老いを感じさせるものがあり、実際、絶筆となった最終作「運命の裏木戸」は、凡作に終わっている。それに対し、この「親指のうずき」は、定評のあるアガサの絶妙なストーリー・テラー振りには陰りが見えるものの、アガサがその出来映えに満足していたというとおり、作品的には水準以上のレベルにあり、ドラマ化する素材としては十分であり、見る者の集中力をそらさない長時間ドラマとして、どのように仕上げているのかが見どころといっていいだろう。
ちなみに、この「親指のうずき」のプロットは、「老人ホームでの死亡事件」、「ある1枚の絵」、「老婆の奇妙な妄想」という三つのテーマを複雑に組み合わせてできている。この映画では、いかにもトミーとタペンス物らしいユーモアをちりばめながら、原作をかなり忠実に再現しつつも、登場人物の設定などに改変を加えてオリジナリティーも出しており、終盤は、一転、シリアスなドラマ作りに重点を置いている。
また、原作の時代設定を現代のフランスに置き換えてもいるのだが、風光明媚な地にある老人ホームと、のどかな田園地帯の村が舞台となっているため、時代設定の違和感は全く感じない。
アガサの作品のドラマ・リストにはフランス製のものはなく、この映画が初出と思われるのだが、本場イギリス製に劣らない内容に仕上がっていると評価していいのではないだろうか。
アガサの研究家が独自の視点を交えて26分間にわたって語っている特典映像「アガサ・クリスティーの世界」も、アガサの人となりと作品を分析したミニ伝記の趣があり、必見だ。