イギリス文学やアガサ・クリスティに関する著作を多数書いてこられたエッセイストで昭和女子大学人間文化学部教授の平井杏子氏によるまさしく「クリスティを訪ねる旅」でした。筆者はアガサの百冊に及ぶ小説を読み返し、地図を広げ、インターネットで検索しながら、数年かけて旅の構想を描いたようでした。
ミス・マープルやポワロの活躍の舞台として選んだイギリスの街を辿りながら、その小説の中で展開される風景の美しさを丹念に記していました。クリスティのミステリを昔々、むさぼるように読んだ記憶が蘇ってくるようです。筆者の無駄のない説明と美しい文章が本書の格調を高めています。
ロンドンからの旅の始まりのパディントン駅からスタートします。随所にクリスティの小説の登場人物やストーリーの一部の説明が挿入されています。アガサの生家アッシュフィールドに関しては32ページからの続・トーキーで説明してありました。小説の舞台の背景や景色は、想像の中で生まれるわけですが、実際の土地との関連もまた興味を覚えるところです。
ミス・マープルの住んだセント・メアリ・ミード村は架空の村ですが、51ページに記されているようにコッキントン村もモデルの候補に選ばれたようです。55ページにはより詳細な探索結果がまとめられています。
ここはまさしく妖精の住む村と呼ばれるに相応しい美しい景色が広がっていました。
名作『そして誰もいなくなった』での孤島のインディアン島のモデルとなったバー島も訪れています。ここは『白昼の悪魔』でもモデルになったようでした。
カラーとモノクロのページが2ページ単位で交替しますが、豊富な写真と本田亮が描いたイラストマップが旅情を募りますし、実際の旅のガイドブックとして機能することでしょう。
章立てを掲載します。本書で紹介された都市、町、村です。
ミステリ・ワールドの扉 ロンドン 少女時代の夢 トーキー 懐かしい記懐 続・トーキー マープルも住む妖精村 コッキントン村 独り歩む風の荒野 ダートムア 華麗な日の残り香 ペイントン 教区教会のある村 チャーストン〜ブリクサム エリザベス一世時代の輝き ダートマス 静寂に包まれた土地 ガンプトン もっと西へ バー島、コーンウォール 引越しが大好き アガサのロンドンの家 登場人物の足跡 ポワロたちのロンドン やすらぎの地 ウォリングフォード、チョルジー