ファン待望の復帰作。店頭で表題作の冒頭を読んでみると、いつも書き出しの見事なフミオさんにしては、すっと入ってこない文章。意図的に変わった文体を試してるんだろうとは思ったものの、正直大丈夫かなと心配したんですが、読み終えてみるとはじめからもう一回読み直したくなる良い作品でした。この文体も読み終えてみると納得できるもの。この表題作「アカペラ」も含め、三作ともなかなかのレベルの作品をそろえてきてはいますが、はっきりした共通テーマのない中篇三本を並べた構成は、まだ一冊を一テーマでまとめきる体力が戻っていない証にも思われます。そういう意味ではリハビリを終えて、社会復帰第一作的な意味合いの強い作品集だと考えて良いのでしょう。最高傑作というのはさすがに言いすぎだと僕も思います。全体の共通テーマをあえて探すと、豊島ミホ的な「ちょっと変わった種類の愛情」といったらよいのかもしれません。冒頭の「アカペラ」は、崩壊しつつある家庭で、ちょっとぼけ気味の祖父に対する15歳の孫娘のつっぱしった恋愛感情を描き、二番目の「ソリチュード」は、従姉妹との恋愛関係を引き裂かれて家出した、自称「駄目な男」38歳が、憎かったはずの父が死んで里帰りをする話。三番目の「ネロリ」は、体の弱い弟にべったりの未婚の中年女性と、その弟に淡い恋心をいだく若い女の子の不思議な三角関係の話。自分とちょうど同い年の男を主人公にした「ソリチュード」が、個人的には一番好きです。