「自分の業績だけを考えるのではなく、利他の精神を」という著者の主張には、共感するところがありました。
しかし、この本が教える具体的処世術は、少し大袈裟な言い方をすれば、学術の退廃を招くことになる気がし
ます。私自身、大学院の修士課程まで進みましたが、結局、長期的に見て生き残るのは、真面目に良い研究
をした人。とりあえずアカポスをゲットするための処世術で職にありついても、その後鳴かず飛ばずの教員にな
るのがオチです。そういう教員(もどき)の人は、学会でも人間関係ばかり気にして、必要な批判や論争を回避
しようとするので、本来学問の場であるはずの学会が「なあなあ」の井戸端会議になってしまう危険があります。
院生の身になって考えれば、アカポスにありつけないのは、確かに大問題、死活問題です。しかし、能力不足で
「サバイバル術」だけ身につけた院生が教員になってしまうことの弊害は、無視できません。国の政策の問題や
若者切り捨ての社会の問題があるにしても、この本の著者は、研究者として一生やっていこうと思うなら、何よ
り研究・学問に真摯に取り組まなければならないし、それを奨励する社会でなければならないという現実に向き
合っていないように思いました。