同じ版元からでた「聖母の贈り物」ではバラエティーにとんだ作品を集めたものだったのに対し本書ではトレヴァーの住むアイルランドをテーマとして内包する短編に特化した作品を集めた編集になっている模様。
一編一編に滋味がありコクがあり小説を読む喜びに溢れた素晴らしい短編集になっていて、本当に嘆息してしまいました。この辺はアリス・マンローと為を張る当代きっての短編作家の面目躍如でしょう。
それにしても殆ど全ての短編に紛争の痕跡が覗え、アイルランドを描くとこんなにも政治的紛争の歴史が影を落とすものになってしまうのが何とも言えず、絶句してしまう。壮絶な歴史を背負っている彼の地の人々に言葉にならない何か得体の知れない感情が胸の内に湧き上がってきて困惑してしまいました。安っぽい同情や憐憫にしたら却って激怒されそうなその複雑な歴史にあまり関わりのない私などはどう対処すればいいのか途方に暮れてしまいます(その歴史を詳述した訳者あとがきは必読)。
小説以外のアート、例えば音楽でもU2,My Bloody Valentine,Hothouse Flowers,Flames等重要なアーティストを生んできたアイルランドという土地に畏敬の念が湧いてきて(一寸怖いけど)行ってみたくなる、そんな短編集でした。映画の原作で出されたままになっている「フェリシアの旅」、「フールズ・オブ・フォーチュン」等の復刊や更なる作品の紹介も待たれます。