脳溢血に倒れながらも、左手のピアニストとして復活した舘野泉の復帰第5弾は、全曲吉松隆の曲をとりあげています。新作の「アイノラ抒情曲集」と「ゴーシュ舞曲集」は基本的に左手のための曲ですが、左手だけで演奏しているとは思われない多彩な音楽となっています。
アルバムの最後を飾る「子守歌」は、もともと田部京子のアルバム『ピアニシモ』(これもすてきなアルバムです)のために書かれた曲ですが、舘野さんのファンでもある美智子皇后のご希望で、三手連弾のためにアレンジされました。他に、田部京子の『プレイアデス舞曲集2』に収められている「4つの小さな夢の歌」も三手用に編曲され、舘野さんと弟子の平原あゆみさんが演奏しています。
演奏も録音も曲もすばらしく、舘野ファン・吉松ファンにはマストアイテムといえるでしょう。私個人の、唯一の不満は、平原さんの独奏で「プレイアデス舞曲集'W」が収められていることです。これは平原さんの演奏に不満があるという意味ではありません。収録曲数が足りない、愛弟子にも機会を与えたいといった事情はあったのでしょうが、あくまで舘野さんのアルバムなのですから、できれば「タピオラ幻景」を再演してほしかったと思うのです。もちろん、すでに以前のアルバムに収められた曲ですから、無理なことは承知しています。しかし、演奏を重ねてより成熟したバージョンを聴いてみたかったと、わがままなないものねだりをしたくなるのです。