センの平和論は「アイデンティティの選択」という人々の認識の問題が、現実世界に統制された描写よりも重みをもつ可能性があることを示している。これはイデオロギーやナショナリズムが対立軸であった冷戦時代が崩壊し、それにかわって文明や宗教といった新たなベクトルが対立軸として認識されることが主流となりつつある世界において、アイデンティティの虚構性を我々に気づかせてくれる、インパクトをもつメッセージである。センは人間の可能性を矮小化すべきではないと主張する。人々の可能性は無限であり、そのなかから理性的な選択をすることにより、制約条件はあるもののいつか「暴力の非制度化」が可能であるという思いが込められている。
センの平和論は体制改革というよりも、リベラリズムの伝統に根差した「個人の自由」である。本書は、人間アマルティア・センの「自由主義的平和論」を理解するには必読の書である。