原題の直訳(Faun and Games)が示す通り、本作はフォーンのフォレストが主人公です。
フォーンとはザンス本編でも何度か描かれているように、上半身は人間、下半身は獣である種族で、ニンフを追いかけつかまえては「お祝い」をするという、非常に脳天気な種族です(ザンス住人の多くもそのような認識のようです)。フォレストのように、「フォーンとニンフの村」を出て木の守護精霊となるケースもありますが、それでもあまり知的な種族であるとは考えられていませんでした。
本作では、そのようなフォーンであるフォレストが、木靴木の守護精霊である友人が失踪したために、その代わりとなるフォーンを探すという使命の旅に出ます。
ザンスシリーズのお約束通り、答えを貰いに魔法使いハンフリーの城へと向かうフォレスト。ところが意外なことにハンフリーは何の答えもくれませんでした。その上、かつて悪夢を運ぶ夢馬だったが、半分の魂を得て白昼夢を運ぶ夢馬となったインブリと共にプテロという場所に向かうことになってしまいます。実はこのプテロこそが、アイダ王女の頭上を周回する小さな月です。こうして、フォレストとインブリは、プテロに行けば、新しい守護精霊が見つかると信じてプテロへと向かいます。
さて、ザンスを長らく読んでいらっしゃる方は、インブリの再登場に心が躍るかもしれません。彼女は、旧作「夢馬の使命」で、白昼の夢馬として生きていく覚悟を得たようですが、どうやら現状の仕事に不満があり、新しいことを始めたいと考え、ハンフリーに答えを貰いに行ったようです。あれだけ紆余曲折の上に馴染んだ仕事にもう飽きてしまうところが、ザンスの住人の人間臭さであり、リアリティのあるところだと感心します。道中で、賢明にフォレストを助けようとする姿や感情の機微はインブリというキャラクターを再発見させてくれました。
しかし、本作の見所は、やはりフォーンのフォレストの魅力でしょう。フォーンとしての特性や自己の種族に対する周囲の評価を冷静に捉え、それに対して対処していこうとする謙虚で理知的な姿や、木に対する深い愛情、そして使命を全うしようとする強い意思は、私の心に強く響きました。
プテロという世界は、今までに登場しなかった新しい冒険の舞台です。そして今後の作品でも重要な位置づけとなるようです。そういった点で、本作は一つの転換点とも呼べるべき作品かも知れません。
前作で登場したクローリンとニムビーのカップルの後日譚も作中に描かれており、相変わらず読んだ後にはお腹が一杯になる大満足の作品でした。
末永く続いて欲しいシリーズの一つです。