近衛文麿、名誉回復の評伝。
マッカーサーから憲法草案作成への協力まで要請されていた近衛が
なぜ一転、戦犯になったのか。
著者はその原因をマルクス主義者の都留重人とH・ノーマンが、
木戸幸一の責任を軽くするため近衛を陥れたとする推論を展開する。
近衛が共産勢力の拡大を危惧する上奏文を提出していたことから、
ソ連の標的とされたのか、ここは実におもしろくつながるが、
推測の域を出ない部分も多く、検証不足という点は否めない。
著者はノーマンの評伝も書いているから、
この点をもっと詰めてほしかったと思う。
新発見の戦略爆撃調査団の尋問書も期待したほどの内容ではない。
ただ、近衛の人間性がよく現れている文書ではあり、
他者を貶め自分を優位に置こうとした形跡などないことから、
近衛がいかに戦後の歴史の中で「弱い近衛」として歪められていったかはよくわかる。
その意味で重要な文書であることには相違ない。
尋問書の発見は今年3月ということなので、
そもそも著者が書きたかったのは、天皇と近衛の関係なのだろう。
近衛自殺後、天皇がいった「近衛は弱いね」の言葉の真意を、
天皇と近衛の特殊な関係性から浮き彫りにすることには成功している。
華族の意味を実感できなくなった現代において、
はっとさせられる視点である。