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189 人中、174人の方が、「このレビューが参考になった」と投票しています。
5つ星のうち 5.0
静かだが揺るぎない感情の交錯,
By Yaginuma (神奈川県相模原市) - レビューをすべて見る
レビュー対象商品: わたしを離さないで (単行本)
「事態の全貌が明らかになった時、読者は血も凍るような恐怖感を覚えることになる。魂の奥底にまで届くような衝撃がある」。脳科学者の茂木健一郎は、カズオ・イシグロの『わたしを離さないで』の書評でこのように書きました。あらすじに注目した書評としては、あながち的外れでもないのでしょうが、私個人がこの作品に抱いた印象は大きく異なります。運命を強制された人々の心の中にあっても、静かでも途絶えることのない感情の動き、それらをイシグロならではの抑制された文体で静謐に描き出した作品。私はそのような印象を受けました。三人の主人公、キャシー、ルース、トミーが共に過ごしたヘールシャムという施設、自らの手で選び取ることのできない運命、これらはあくまで舞台背景であって、この作品の本質を成すものではないように思われます。 他者の手で強いられた運命の中においてさえ、三人の心の内では、喜び、怒り、悲しみ、あらゆる感情が揺れ動きます。それは、三滴の雫が静かな水面に発生させた同心円の波が広がり、交錯して増幅し、すれ違い、そして去っていく様子が想起されます。 海辺の町クローマ(イングランドのLost Corner:遺失物置き場)は、この作品において極めて重要な土地ではないでしょうか。トミーがキャシーのために”Never Let Me Go”が収録されたカセットを探す町、ルースが自らの母親を探す町、ヘールシャムで育った者達が異なる未来を探す町。そこには何も見つからないかもしれない、私達の運命は既に決定されているのだから、それでもそこを訪れない訳にはいかない。 この作品でのイシグロは、これまでの執筆活動の頂点に達したように見受けられます。今後彼は、技術的にも内容のうえでも新しい試みを始めることになるのでしょうか。不安と共に期待をもって待ちたいと思います。
83 人中、77人の方が、「このレビューが参考になった」と投票しています。
5つ星のうち 5.0
衝撃☆,
レビュー対象商品: わたしを離さないで (単行本)
どこかミステリアスに描かれていて、読むに連れてこの小説の中の世界が段々と見えてくるようになっています。それは私達の住む世界と異なる世界ですが、同時にその世界は私達の世界に重ねられるべきものであり、登場人物達は私達と同じなんだと思いました。SF的でありながらも、登場人物達の姿は何よりも現実感を持って訴えかけてきます。そこから私達の何気ない日常に繋がるメッセージが透けて見えるような気がしました。これは登場人物達が、(極端に言えば私達と同じように)限られていて、抜け出せない現実があり、でもその中に何かを見出そうとしているからこそではないでしょうか。 そしてこの小説を支えるひとつに文章の良さあると思います。描写や洞察力も素晴らしいのです。その繊細かつ静かな語り口で綴られるエピソード群は、確かな生を感じる事ができ、引き込まれます。特にラストシーンにかけてのそれは本当に、本当に痛切なるもので、思わず言葉を失ってしまいました。心の一番奥で渦巻くような気持ちです。大袈裟ではなく、読み終わってもずっと胸がヒリヒリしたまま、何も出来ないでいたほどでした。 今思い出しても、自分が何かを感じてるのがよくわかります。凄く「残る」作品です。 読んでよかったです。
44 人中、41人の方が、「このレビューが参考になった」と投票しています。
5つ星のうち 4.0
末期癌患者のメタファーとして読む。残酷な運命をいかに受け入れるか。,
By 鷺坂判内 "まさぞう" (神奈川県) - レビューをすべて見る
レビュー対象商品: わたしを離さないで (単行本)
過酷な運命を予め定められた若者たちの話なのだが、末期癌を患い、余命があと半年から数年という自分にとっては、本書はSFともミステリーとは読めなかった。末期癌で、近い将来に死を予定された人が自分の運命をいかに受容し、その過酷さと妥協し、最後は思い出を唯一の糧として死んでいくのか、というメタファーとして読んだ。いわば、数年後に死ぬことが決められており、それを変えられない事実として予め知らされているという状況。自分では運命を変えることはできず(新しい癌の特効薬が出来ない限り。そして、それは絶望的だ)、抗癌剤によって(極めて苦しい副作用を伴うのに、完治されない)余命を数ヶ月、数年引き延ばしているという人生。自分の死を意味する「提供」が数年猶予される僅かな可能性に、主人公たちは心を揺さぶられるが、それは効かないかもしれない新たな抗癌剤の登場に期待をかける末期癌患者(癌難民)に良く似ている。 私のような読み方は邪道で、著者は運命の過酷さと、それにいかに折り合うべきかという主題についてを、臓器提供のためにだけ生まれてきたクローン人間という想像を絶する設定を用いて、淡々と語っているのだろう。しかし、目前に死を控え、抵抗してもしようがないという意味で、本書の主人公たちと似たような人生を送っている私にとっては、全くの絵空事とは思えず、かえって感情移入が難しく(余りにも自分に身近だと、白けてしまうのか)、没頭できなかった。 何故、彼らは自分の運命を変えようとしないのだろうか。 死を目の前にして、私は、自分の人生の意味を考え、無駄な人生でなかったと思いたいのだが、私にとってのヘールシャムは、宝物とはなんだったんだろう、としばし感慨に浸った。
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