内容も表現も、読みごたえのある魅力的な作品でした。
反目していた祖母から逃れるために家を出ていた主人公マルタは、
祖母が少しずつこの世界の人でなくなり、やがて亡くなってしまってから、
遺品を整理する内に見つけた母の手紙から、父が生存していることを知ります。
そしてやむにやまれぬ気持ちから、母と自分を捨てた男に会いに行く。
会ってみると父親は、母が手紙で書いていた通りの虚無的な哲学者で、
マルタとの始めての出会いも、喜びを見せることなく当時の話をするのです。
母はこの男に何を求めたのか? この男は何を求めて母と関係を持ったのか?
母は虚無的な男の哲学に憧れた結果、子どもの受胎を喜んではもらえず、
一人ででも育てる決心をして産んだものの、精神を不安定にしてしまう。
それを意に介さない父は、いのちの豊かさから遠く冷たい世界に生きている。
マルタは母への共感と共に、父の冷徹な考え方に違和感を覚えると、
もう会いに行くことをやめ、やがてその他に唯一の血縁である大叔父を訪ねます。
大叔父ジョナタはイスラエルのキブツで、グレープフルーツを栽培して暮らし、
彼は宗教と言うよりも、大地に根ざして木を大切に生きる人だったのです。
そのジョナタから、マルタは今まで知らなかった多くの話を聞くことができます。
その多くは、祖母が話す機会のないままに終わった、祖先の悲しい物語でした。
そしてジョナタはマルタに問うのです。「君は何を信じているのか」と。
人は何故生きるのか?それは動物のいのちと同じなのか違うのか?
根元的な問いかけは、自分とは何かと問い掛けながら、生きる意味を探ります。
そして作品の登場人物を借りながら、様々な価値観と生き様を紹介するのですが、
それはすべて自分と関わりがあり、その上で自分がどう生きるかを問われるのです。
作中人物を通して、作者の心を明かしながら、読者にも問い掛けてくる。
すさまじく真剣な、生きる意味を問い掛ける作品でした。