米国の物理学者で、疑似科学批判の論客でもある著者が、怪しげな「科学」への検証・批判を行った『Voodoo Science(ブードゥー科学)』の邦訳である。次から次へと現れる胡散臭いダイエット・健康法やニセ医療、ほとんど詐欺まがいの「永久機関」への投資話、それを話題性だけで無批判にもてはやすマスメディアの責任、米国でのカルトがらみの事件、「常温核融合」のその後など、類書であまり取り上げられていない最近の情報が豊富で、この方面のウォッチャーには参考になるだろう。
少し注意が必要なのは、本書の「ブードゥー科学」には、厳密には疑似科学と分けて考える必要がある内容---巨額の費用を投じながら成果が見込めない(と著者が考える)宇宙開発なども含まれることである。個人的には、こうした研究には「失敗してなんぼ」の部分があり、そこから生まれた知見や派生技術が後から役立つことも多いので、安易な成果主義の持ち込み(特に「経済への貢献」を求める風潮)には慎重であるべきと考えている。スーパーカミオカンデのニュートリノ観測が今の日本経済に直接貢献しているかと言えば、答えは「否」だろうし、逆に「経済への貢献」を前面に押し出して強行された挙げ句、税金を使っての大規模な環境破壊に終わった諫早湾干拓事業(当時、開発推進派のメディアが反対運動に対して行った「人間よりムツゴロウが大事なのか」のバッシングなど、「ブードゥー科学」と共通するものを感じる)などの例もあるわけで…。もっとも、著者の批判の多くは、時代の空気に迎合したプロジェクトの立ち上げや失敗の隠蔽、話題性の高い分野ばかりに力が注がれ地道な研究がおろそかにされることに向けられたもので、そういう意味では私も共感できる。
疑似科学の問題に留まらず、科学そのもののあり方やメディアのモラルについても考えさせられる1冊だが、内容が近年の米国中心で、オカルト・疑似科学一般についての解説はやや少なめとなっている。より理解を深めるため、例えばM. ガードナー『奇妙な論理』なども併せて読んでおくことをお勧めしたい。