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物語の前半は比較的ゆっくりと登場人物のあり方が描かれているのに対して、後半は下手すると荒唐無稽な展開が繰り広げられ、驚きと不安を読者に持たせ、一気に切ない大団円を迎えます。
喪失そのものは哀しく切ないのですが、しかし読後感は決して悲愴感だけではありません。失うことを現実としてあるがまま受け入れ、はじめてそこから何かが始められる、そんなそこはかとない希望を持たせてくれる、素敵な小説でした。
しかし気を付けなければならない点は、
イシグロの語り手は決して真実を語っていないということだ。
起きたこと、台詞、そして語り手の心情でさえも
語り手の恣意によって歪められ、都合の良いように隠匿される。
つまりイシグロの小説世界は寄る辺無い世界なのだ。
足許が安定していないだけに、読み手の位置も、
他の登場人物との距離感も判然とはしない。
普通の小説に慣れた感覚で読み進めると、かなり気分の悪い思いをするはずだ。
本書の舞台は上海租界。
中国大陸にありながら、中国でも欧米でもない魔都を舞台に選んだということは
ありきたりではあるが、そのイシグロの小説に流れる浮遊感覚
を表現するには最適な舞台なのだろう。
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