寡黙で哲学的な作風に加え、作品数も少ない森敦。一高時代に「酩酊船」でデビュー後、40年間を沈黙した後に「月山」で芥川賞を受賞して本格的にメジャー化して以降、森敦はちょっとした売れっ子文化人として晩年を過ごした。小説は仏教的で難解な作品を書きながら、同時にCMやらレギュラー番組やらを抱えつつ、ラジオや週刊誌の人生相談みたいなベタな仕事までやっている。
本書はそういっ晩期に新聞や企業広報誌などに書かれた随筆を集めたものだが、特に前半の新人作家時代に同期組の太宰治や檀一雄と一緒に文壇を元気よく泳いでいた頃のエピソードが興味深い。壇が太宰をメジャー誌でデビューさせるためだけに、新聞広告まで打って太宰作品を載せた自主雑誌を創刊したこと、無頼派のイメージが強い太宰だが、書かなくてはならない時はいつも真面目に机に座っていたこと、等など同時代人じゃないと知らないエピソードが満載だ。勿論、森敦自身の人生も壇や太宰に負けずかなり個性的なので、その辺りは本書の中〜後半でじっくり楽しめる。
ただ、森の人物像と伝記的エピソードには特に解説もないので、その辺の周辺情報はある程度知っていた方がこの本はより分かりやすいと思う。(逆に出版当時は説明が無くても、森敦という人物自体が世間に通じる有名人だったということでしょう。)そういった伝記的事実に詳しくない新し読者の方が最近は多いと思うので、そういう方は「文壇意外史」を先に読むことをオススメします。
なお、夜の闇にライトアップで浮かぶ金木犀(だと思う)の写真を使った装丁も、森作品の雰囲気とうまくマッチしていて、オススメ。