宮城県気仙沼市出身の畠山美由紀が、東日本大震災の9ヶ月後にリリースしたアルバムです。全編にわたってこの未曾有ともいうべき大災害を全面に押し出した作品作りになっています。もちろん彼女自身が被災したわけではないと思いますが、おそらくごく近しい知人や親戚の方が亡くなったり、また思い出深い街並が見る影もなく破壊されてしまったのでしょう。この震災が彼女に及ぼした影響の大きさを感じずにはいられません。
しかし実際にこのアルバムを聴いてみると、胸焼けに似た感覚を覚えるとともに、少し物足りなさを感じてしまいます。私は畠山美由紀のこれまでの作品を非常に高く評価しています。独自の視線から誰の真似でもない自身の言葉で喜びや悲しみ、故郷への想いなどをこめる作品作りは、彼女独特のものであり、とても他人にできるものではありません。ところが今回の震災一辺倒ともいうべき作品の作り方に、彼女の独自性を見出すことはできず、言い方を変えれば、この大震災である一定以上の影響を受けた人間ならば、彼女ではなくても似たような作品を作れるのではないか、と感じてしまいました。
また、このアルバムの中で彼女はWhat A Wonderful World, Moon River, Over The Rainbowなどをカバーしているのですが、多くの人に歌われ文字通り手垢のついた名曲にも拘らず、どれも彼女の魅力を十分に引き出しているとは言いにくい仕上がりです。これまで彼女が歌うWOMAN, Every Breath You take, Time After Time, So Far Away, Jesse, 星影の小径などを聴いて身の震えるような感動を何度も味わってきた私としては、今回そのような感情に身を委ねることができなかったことを、非常に残念に思います。
今回の大震災が畠山美由紀に与えた影響はとても大きいものだったと思われます。彼女がこれらの影響を見つめなおしまた気持ちの整理をつけるためには、震災からアルバム・リリースまでの9カ月という期間が、あまりに短すぎたと言わざるを得ません。もう少しゆとりを持って作品制作を行うことができたなら、今回のアルバムはまた違った味わいになっていたのかもしれません。
少しネガティブな評価になってしまいましたが、それでもお金を払って手に入れる価値は十分にあると思います。出した分の元はしっかりとれるアルバムであることに変わりありません。ただ、これまでずっと畠山美由紀に魅入られてきた私としては、もっと高いレベルのものを期待せずにはいられないのです。