登録情報
|
内部告発というものがおそらく最も難しい組織の中にあって、元幹部であるこの著者は、自らの身の危険を顧みることなく赤裸々にその欺瞞と腐敗を描き出している。おそらくは家族への配慮からまだ語り尽くせぬ部分があったらしいことがあとがきに述べられているが、これが一個人による反逆であるという事実を考え合わせてみれば、個人が受け止めうる限界をすでに超えた驚愕の内容であることが浮かび上がってくる。その勇気にまず敬意を表したい。
また、こういった類の本は一般的に、蓄積された事実や資料を正確に伝えようとするあまり読み物としての魅力を失うことが多々あるのだが、幸いにしてこの著者は優れた文章力を持っている。あるいはそれは編集陣の努力によるものなのかもしれないが、いずれにせよ、最後まで一気に読ませるだけの魅力を併せ持つ、希有なノンフィクションである。
まず、1960年代を中心に行なわれた、帰国事業の推進については、明らかに総連組織の影響力誇示という目的があり、専従活動家であった著者自身も、「地上の楽園」とは信じていないが、「点数稼ぎ」として一人でも多く送り出すよう、説得していったことが明らかになっている。
さらには、富裕層・中間層は、わざわざ北朝鮮に渡航しようとしなかったところ、総連組織は、明らかに貧困層を標的に説得工作を行っていったという、恐るべき事実が明らかになっている。加えて、帰国者からは、不動産などの「寄付」を総連に行なわせ、多数の工場などが総連に「寄付」されたという、許しがたい事実も述べられている。
こうして帰国した人々の親族の訪問は、帰国者の悲惨な境遇を明らかにしないために厳禁されていたが、一時期から、親族から金品を制度的に「巻き上げる」ために、親族訪問団を認めるようになったという。親族と会うためには、最低でも300万円、中には1000万円も必要であったという。
こうしたことから、「帰国事業」が北朝鮮と総連による、人権侵害、搾取、抑圧の手段として、現在に至るまで用いられていることは明白だ。逆に言えば、この「帰国事業」によって、帰国者の身柄を引き換えに、北朝鮮と総連は「集金システム」を構築し、批判勢力を黙殺してきた。もし、「帰国事業」がなければ、現在の北朝鮮、総連は存在していなかったかもしれない。
さらに、著者は、北朝鮮工作員の接遇、在日を留学生に仕立てる形での韓国への諜報工作、地上げ、パチンコ経営による資金源の確保など、総連組織の本質を完膚なきまでに明らかにしている。まさしくそれは、新興宗教組織そのものであり、こうした「地下社会」がわが国に厳然として存在していることも明らかになっている。
|
|
|