マルケスの最新作、しかも川端作品に想を得ての作品という予告記事をずいぶん前に新聞で読み、それからずいぶん待ち焦がれてやっと読んだせいもあってか、期待はずれの感が強かった。マルケス独特のユーモアや軽妙さは健在だが、やはり過去の名作の数々と比べて質・量ともにどうしても見劣りがしてしまった。
決定的に違和感を覚えたのは、90歳の老人という語り手の設定。誕生日のお祝いに処女とみだらに過ごしたいという願望があってもかまわない。その少女に恋をしてしまうのも別に問題はない。でもその思考回路と行動力があまりに能天気すぎて、どう読んでも90歳のリアリティがない。タイトルの「悲しき」が「娼婦」にかかるのか「思い出」にかかるのかわからないけど、いずれにしても「悲しみ」は伝わってこない。余計な感傷も乾いてしまうという意味でそれが90歳のリアリティなのだろうか…。そんなの文学で読みたいと思わないし。
「百年の孤独」などの名作には、突拍子もないストーリーの数々にも確かなリアリティがあった。それがマジックリアリズムと呼ばれる所以なのだろう。そのリアリティの欠如ゆえに、この作品にはストーリーテリングのわくわくする面白さが感じられない。
文章や構成もやや雑な感じで、たとえば「予告された殺人の記録」などの緊密な構成と濃厚で磨きぬかれた文章には比べるべくもない。さらに比べる必要はないながら、少女と対峙する老人の心理を通して生と死の構図を陰影豊かに描き出した川端の「眠れる美女」には到底及ぶべくもないと感じた。
ファンとしてあえて言わしてもらえば、これはマルケス作品の中でも駄作の部類だと思う。手に取りやすい分量と目を引くタイトルや書き出しにつられてマルケス入門として読もうと思う人がいたら、まったくおすすめできません。