何より本書の復刊を期した弟子の森下卓の推薦の言葉がいい。真剣師だった著者が木村十四世名人の弟子となってプロに転じ、森下自身は直接目にすることはなかったようだが、駒落ちでたびたびプロを相手に負かしていたことを伝えている。師の木村には駒落ち定跡も扱っている名著『将棋大観』があるが、その木村をも唸らせるほどの妙技であったという。
本書にはすべてではないにしろ、妙技がふんだんに、しかも明快に解説されている。大駒を落とすのが駒落ちなのだから当然といえば当然なのかもしれないが、まず金銀桂の使い方の巧みさには舌を巻く。下手の仕掛けの意図を読み、前線から一歩引いたところで金銀によってがっちり受ける。相手の攻めを切らせてから攻めに転ずる呼吸。平手戦でも大いに参考になる。
森下が単に師匠への恩に報いるためだけに復刊を働きかけたのではないことがよくわかる。永く記憶のとどめられてよい駒落ち定跡の名著である。