「欠陥翻訳時評」が果した役割は、権威にとまどわず、訳文の理解しがたさに絞った批判を行うことで、専門家(学者)が翻訳の名手とは限らないことを明らかにし、常に試訳を掲げたことで翻訳における「readablity(わかりやすさ)」の大切さを周知徹底させ、その結果としてその後の翻訳の大衆化に寄与したこと、の3点に集約される。
1980年代は「翻訳の大衆化」の時代。このコラムは「読みにくさ」を読む立場から指弾し、「分からないのは読者の頭が悪いからではなく、翻訳そのものが悪いからだ」と気づかせることで、この時代に大きく貢献したのだ。その意味では本書の「試訳」が「名訳」ではないことも、饒舌体に関するよしあしの指摘があったことも大した問題ではない。本書が示すように、翻訳者は、世の中に定着しつつある「常識精神」の中で、各自の「名訳」を求めればよいのである。(玉川達哉)
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