平山監督の前作「しゃべれども しゃべれども」は、現代の落語界を舞台にした秀作でしたが、本作は十返舎一九の「東海道中膝栗毛(やじきた道中記)」に古典落語のエッセンスを加えた時代劇。落語の「てれすこ」「淀五郎」「狸賽(たぬさい)」「浮世床」「野ざらし」などのネタが、ストーリーの中に巧みに織り込まれています。
古典落語をベースにした時代劇と言えば、川島雄三の傑作「幕末太陽傳」がまず思い浮びます。本作も、「幕末太陽傳」をずいぶん意識していますね。「幕末太陽傳」は、主演のフランキー堺が伝法な江戸弁を駆使して鮮やかな印象を残しましたが、本作の中村勘三郎(弥次郎兵衛)も、それに劣らぬ快演。亡き妻の幽霊へのセリフなんて巧すぎますよ。もちろん、喜多八を演じる柄本明も負けていません。悪酔いして暴れるシーンなんて演技を超えています。
特に山あり谷ありではなく、のんびり、ほのぼのした映画でした。でも、小泉今日子演じる「足抜け」した花魁を旅の仲間に加えることでラブストーリーとしての色合いを加味したり、喜多八を売れない歌舞伎役者に設定することで物語にふくらみを持たせることにも成功しています。「コメディ」というよりは、あえて「人情喜劇」と呼びたい感じの仕上がり。ベタなギャグも多いのだけれど、そのベタさ加減も含めて『なつかしい』古き佳き日本映画の味わいがあります。
一方で、小粋な洒落っ気も全編に横溢。たとえば、オープニングに主演の3人をキャラクターにしたアニメが用いられ、そのバックにガーシュインの「ラプソディー・イン・ブルー」を邦楽にアレンジして使うあたり、遊びごころと言うか粋と言うかスタイリッシュだよね。若い人に観て欲しい映画です。