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12 人中、11人の方が、「このレビューが参考になった」と投票しています。
5つ星のうち 5.0
ものを美しく見せる「時間」の魔法,
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This review is from: もののはずみ (単行本)
新聞に連載されていたと思しきごく短いエッセイのひとつひとつに、マッチ箱よりひとまわり大きいくらいの白黒写真がついていて、そこには全て、作者の愛した「もの」が写っている。堀江氏の小説を好きな人なら、この装丁を見るだけですでに笑みがこぼれてくるのではないだろうか。それは、主にフランスの古物市などで出会った、日用品、電化製品、文房具、玩具などで、いわゆる高価な骨董品というよりは、二十年から百年前にはごく普通の家庭で当たり前に使われていた、むしろ量産品だ。そういう「もの」との出会い、買おうかやめようかという戸惑い、店主との味わい深いやりとりが(というかそれだけが)書かれたエッセイだ。どうしてこんなに胸に沁みるのだろう。 それは多分、ものとの出会いに、ささやかな幸せや愛しさが感じられるからで、そういうあたたかな優しさ、あるいはおだやかな痛みが、氏の小説の持ち味でもあるからだろう。人ひとりの運命を変える荒々しい瞬間、というものももちろん書かれているが、それはごく一部で、氏の小説の大半を占めるのは、ささやかな日常のドラマのように思う。ささやかな愛やかなしみの、胸があたたかくなったり、胸がきゅっと締めつけられたりするリアリティーが、氏の小説の大きな魅力なのだ。 逆説的に言うとこのエッセイ集は、小説的な趣に満ちている。旧式のスライド映写機が、白いペンキを塗っただけの殺風景な壁に、クフ王のピラミッドをぼんやり映す瞬間や、四桁の数字がパタパタ動くイタリア製の重い鉄の目覚まし時計の、十九時五十九分から二十時になる瞬間(!)の、なんと小説的なことか。骨董屋で、ある陶器に出会った作者は、ベージュ地に黒と茶がしっくり溶け込み、時とともに生じた貫乳もどきの傷がなかなかいい味を出しているのを見て思う。ありきたりのものを美しくするのは「時間」だと。そう、堀江氏の作品に人は「時間」を読んでいるのだ。
7 人中、6人の方が、「このレビューが参考になった」と投票しています。
5つ星のうち 5.0
その気持ちにひかれて,
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This review is from: もののはずみ (単行本)
陶製のペンギン、穴のあいたトランク、大小の木樽、ボル、ベークライトの小皿・・・。偶然に手に入れた愛すべき古きものたち。その「もの」がまとうのは、手触りや音、匂い、そしてかつてそれを手にしていた主の記憶である。殊更に骨董を買い求める、というわけではなく、ふらりふらりとさまよい歩くなかで、気持ちをひかれたものを手に入れる。このスタンスが「もの」の持つ記憶と筆者との間に、微妙な距離感、緊張感を生み出している。どこかしらいびつで、角のとれた、やわらかさ。古いものが生み出すあたたかさは、それがたくさんの人の手に触れてきたことを物語る。そしてその「もの」が愛らしいのは、それを持ち主から譲り受けたときの、ささいな言葉のやりとりがあるからなのだ。ものにひかれるのは、それを生み出し、かつてそばにおいたひとの気持ちにひかれる、ということなのかもしれない。
1 人中、1人の方が、「このレビューが参考になった」と投票しています。
5つ星のうち 4.0
所有欲以上の何かを教えてくれる、,
By cobo "コボ" (東京都杉並区) - レビューをすべて見る
This review is from: もののはずみ (角川文庫) (文庫)
いつもながらの堀江さんの文章で紡がれるささやかなものの写真とそれを生活の中に取り入れる効用や、買い物の快楽を1段上に上らせてくれるエッセイです。散文の名手と私が思う作家さんなのですが、このような短い文章でも、立ち上らせる匂いを感じさせてくれて気分転換にはとても良い作品でした。私は文庫で読みましたが単行本での写真を見てみたくさせます。中でも私が気に入ったのは、昔の空港のシーンでは(そもそも海外旅行の経験の無い私には空港体験がほとんど無いのですが)必ずあったパタパタめくられる目的地と時間を示すアナログのパタパタ(正式名称がワカラナイ!)と時間の話し「十九時五十九分の緊張」、第1次世界大戦と木製トランクと雨の日の本漁りの話し「ランシャンタン」、何故売っていて?何故買う!の「ネームタグ」、私も子供の頃これを宝箱の中に入れて磨いては満足していた「ドアノブ」、カレンダーと暮らしと後の祭り「万年暦」、大いなる勘違いを笑えない「夢想のなかの知己」、この大きさは凄い!1円玉との比較も出来る「黒猫一家の海外移住」(私のこの本のベスト)、キーホルダーには私も性格が出ると常々思っています、の「鍵が見つからない」、不思議な居場所を求めた「ガスメーターのヴァイオリン弾き」、売り買いの現場に現れるふとした何かが降臨する瞬間を捉えた「家具の森の奥で」です。 何気ない「お買い物」にそれ以上の快楽も得られることを思い出させてくれる本です。私の経験でいえば、それは小銭を握り締めて通った駄菓子屋のおばちゃんとのやり取りにこそ、その原型があると思ってます。 買い物をさらに上質にする何かに興味のある方に、実用性だけでは測れない何かを生活に生かすためのものが気になる人にオススメ致します。
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