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40 人中、36人の方が、「このレビューが参考になった」と投票しています。
5つ星のうち 5.0
ドレスデン、広島、WTC、そして東北大震災…。それでも人々は震える足で大地に立つ。,
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レビュー対象商品: ものすごくうるさくて、ありえないほど近い (ハードカバー)
ニューヨークに暮らす9歳の少年オスカーは、父の遺品の中から鍵をひとつ見つける。それが入った封筒にはひとこと「ブラック」と書かれていた。ブラックという名の人物がこの鍵の秘密を知っているに違いない。オスカーはニューヨーク中のブラックさんを訪ねて歩き始めるのだが…。 2005年に発表されたアメリカの現代小説です。 父が働いていたのはあの世界貿易センタービル。そう、これは9・11テロの犠牲者の遺族であるオスカー少年と母、そして祖母と祖父の物語です。 描かれるのは21世紀初頭の9・11テロのみならず、第二次世界大戦中のドレスデン大爆撃、そして広島原爆投下。巨大な力によって一瞬のうちに計り知れない数の命が失われた人類史へのレクイエムとなる小説といえるでしょう。 行間のスペースの大きさを場面によって巧みに変えてみたり、言葉をところどころ抜いてみたり、はたまた黒くぬりつぶしたり、句読点の打ち方の誤りを校閲した朱筆の跡を残したり、写真をパラパラ漫画風にレイアウトしてみたりと、著者は視覚的な企みを随所に配していて、なんとも独特の構成になっています。 しかしもちろん、そうした見た目の奇矯さがこの本の眼目ではありません。 ちょっと大人びたオスカー少年はわずか9歳でもはや生きることにちょっと倦んでしまっています。 「人生というのは苦労してまで生きる値打ちがあるんだろうかと考えた。それだけの値打ちがあるものにしているのは、正確にいって何なんだろう?ずっと死んだままになって、何も感じないで、夢も見ないでいるのは、何がそんなにこわいんだろう?感じたり夢を見たりするのは、何がそんなにすばらしいんだろう?」(186頁) 幼い彼にそんな思いを抱かせてしまうほど世界は絶望に満ちているのでしょうか。 しかし物語は、オスカー少年が少し突飛な行動に走りながらも生きることをあきらめずにいそうな兆しを見せるのです。そのために彼が寄る辺と頼むのは、家族です。 厭世的に生きて来た祖父との予期せぬ邂逅も、この物語の重要なアクセントとなっています。 コミカルで切なく、物悲しくも明るい、抜群の物語がここに紡がれているのです。 9・11の十周年にあたる年に日本語版が出版されたというのは確かにひとつの意味を持ちますが、それよりなにより、3・11を経た今、これは多くの日本人読者にとって---当初作者が意図しなかったはずの---大きな意味合いを持つ物語へと相貌を変えたように思えてなりません。 この物語が日本の多くのオスカー少年たちに、キミたちが生きることをあきらめずに済む社会は確かにあるのだというメッセージを伝えるための、ひとつのよすがとなってくれることを願ってやみません。
7 人中、6人の方が、「このレビューが参考になった」と投票しています。
5つ星のうち 5.0
息子を持つ父親の立場,
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レビュー対象商品: ものすごくうるさくて、ありえないほど近い (ハードカバー)
小さい息子がいる父親としての立場から、どうしてもオスカー少年の行動を見てしまいますね。もちろんありえない事件に巻き込まれる、それが避けようもないことはあるだろうけど、 オスカー少年の気持ちを思うと泣けてくるものがあります。 それでも彼は家族、隣人の助けを借りて(時には彼の目にはその助けは映らないが)、 前へ進むきっかけを探す旅をし、一つの結論に達することができたのではないかと感じました。 彼が達したものは何だったのでしょうか。 失った者は現実には帰ってこないが、記憶の中の安全な場所では生き続けられるということでしょうか。 自分だけが失い、傷ついているわけではなく、周りの家族や、知らない人々も、 色々なものを失い、傷ついているというでしょうか。 そして同じように失い、傷ついた者達が、彼を助けてくれているということを、 最後には彼も理解できたように思います。 父親としての立場での感想としては、ここまで息子に愛される父親になりたい、ということかな。 現実には難しいのですが。 とにかく読んで損はない物語です。
12 人中、9人の方が、「このレビューが参考になった」と投票しています。
5つ星のうち 4.0
喪が明けるまでの長い長い彷徨の物語,
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レビュー対象商品: ものすごくうるさくて、ありえないほど近い (ハードカバー)
9.11で傷ついた魂の救済の本、と読めなくはないけれども、9.11はきわめて抽象的にしか描かれていない。もっと普遍的な何かを伝えることを目指している本だと思う。主人公、オスカー・シェルの父、トーマス・シェルはワールド・トレード・センタービルで、9.11の同時多発テロに遭う。残されたオスカー、その母、祖母、祖父……そのだれもが嘘をつき、秘密を抱え、何かから顔をそむけて生きている。あまりに愛し、執着せずにいられないものから。あまりにつらく、たとえ真実とだとしても受け入れられないことから。 Shyness is when you turn your head away from something you want. Shame is when you turn your head away from something you do not want. オスカーとその家族の物語は、突然奪い去られた命の何倍もの数の残された命が受け止めなければならない悲しみの途方もない深さを読む者に感じさせる。善悪もなく、敵味方も虚実もなく、そこにはただ、言葉を失うほどの悲しみだけが残っている。9.11を題材にしながら、本書には加害者、被害者、正義、悪、といった言葉が一切でてこない。この小説の目的はそういった対立を描くことではなく、人の心に残る痛みの純度を極限まで高めて抽出することだからだろう。 Life is scarier than death. オスカーは父が残した謎の鍵を手に、ニューヨークの町を彷徨する。鍵の入っていた封筒に書かれた「ブラック」というラストネームをもつ人を電話帳をたよりに一軒一軒たずねるという気の遠くなるような大計画だ。そうまでしても彼は知りたかった。父はどのようにして死んだのか。それがわかれば、そうだったかもしれない悲惨な死に方をあれこれ想像して苦しまなくてもすむから。奇跡的な偶然によって鍵の謎は解けたが、父の死にまつわる疑問は解けなかった。オスカーが最後にとった行動は、父の入っていない棺桶をもう一度あけてみることだった。棺桶が絶望的なまでにからっぽであることを確認したオスカーは、「そうあるべきだった未来」を封印し、また前を向いて歩いていく。エンディングの場面はそのように読めた。 I felt like I was looking into the dictionary definition of emptiness. 人は失ったものを失ったままで生きていくことはできない。失ったものを一度自分のなかにとりもどすのが喪の作業である。あらゆる歴史的悲劇の克服は、個人の喪の作業に還元されるのだ。
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