田中ユタカ久々の新刊「もと子先生の恋人」。コンパクトに全1巻。
久々といえば、ヤングアニマルから彼の新刊が出るのもすごい久々である。
担当の方もかつての中澤さんだそう。
田中ユタカの作品では珍しい、ショート方式での漫画です。
一応、掲載順に話数が付けられていますが実質あまり区切りのようなものはありません。
扉絵がその都度描かれているだけであとは一気に気軽に読めてしまう良作に仕上がっています。
今までの彼の作品からすると、読切でもない限りキャラクターには過酷な人生や出来事が
課せられていて、それを乗り越えたり暮らしを守るってことが作品の醍醐味だった気がしますが
この作品では主役2人が作家と担当という設定以外、驚くほど普通の話です。
特異な出来事は起こらないし、作中で書かれるネガティブな事象も普段私たちが普通に暮らしていて
当たり前に感じる辛さや劣等感が描かれているだけで、限りなく日常に特化した流れになっています。
確実に言えることは、彼の連載作品の中では一番スッと読める漫画になっている、ということ。
それでいて奥深い愛の描写もしっかり描いている。
行為自体を敢えて描かずにぼかした描写をしているのもこの作品には合っていると思う。
そしてこの作品には田中ユタカの漫画家とは、編集者とは「こうであって欲しい」という
理想観や思想も大いに感じられた。もと子先生は作者自身を投影したキャラにも思える。
関西人という設定もそうだし。 今まで私は田中ユタカの単行本を購入する上で「あとがき」を読むのが非常に楽しみだったりするのだが
そのあとがきで言及されている信念のようなものがこの作品から滲み出ているように思えた。
作品に魂を込めるということ。 人に見せても恥ずかしくないものを作るということ。 妥協を決してしないということ。
全身全霊って言葉が良く似合う。仕事をしているもと子先生と担当の山崎さんには。
現実とのズレは多少あるだろうけど、現実にもやっぱりこういう人たちはいると思う。
あと何気に現実にリンクしたものも出てくる。
「少し前に大ヒットした四コママンガのキャラクター〜」っていうのはあずまんが大王を差していると思うし(多分)
もと子先生は元気にブルーハーツの歌を口ずさんでいたり。
相変わらず登場人物は日常の機微と、人生を賭ける職業と、自信が敬愛する人物のために闘っている。
必死で今を生きている。このような気軽に読めるショート作品に於いても、登場人物の生き様が心に残る。
最後に、読者の一人としてあらためて田中ユタカに感謝したい。
いつも素敵な作品を読ませてくれてありがとうございます。これからも私は読み続けます。