【あらすじ】
かつて講道館の赤鬼とよばれた青年柔道家もうれつ先生は、長い修行 の旅を終えもうれつ道場を開いた。無敵の強さと心優しい人柄がたち まち評判となり、道場の入門者は後を絶たない。やがて、講道館柔道 五段の美女鬼姫と鞍馬山でともに修行した親友黒鬼が、もうれつ先生 のもとに集まり道場は毎日にぎやかだ。ところが、もうれつ先生を妬 む黒帯道場の門弟たちがもうれつ道場を襲撃。鬼姫と黒鬼の活躍で追 い払うものの、講道館の実力者である青鬼が影で黒帯道場を操ってい ることが明らかになるのだった。果たして青鬼の狙いとは?そして、 もうれつ先生が道場を開いた本当の理由とは?
【解説:中野晴行】(一部抜粋)
主人公の赤鬼こともうれつ先生が大人であること、女性柔道家の鬼姫 との恋や、第二部でふたりが結婚し新婚旅行に出かけるあたりも、60年 代の少年マンガにはちょっと珍しい展開だろう。少年マンガの主人公は 少年で、恋はしないのが普通だった。恋愛を描いたのは手塚治虫くらい じゃないだろうか。
しかも、赤鬼のもうれつ流柔道は、スーパーマン的荒唐無稽なもので はない。相手の力を利用して技をかける理論的な柔道であることが随所 に説明されていて、強さが子どもにも納得できるものだった。
実在の講道館を想起させる広道館というネーミングや、小兵ながら 「空気投げ」という技を編み出して講道館の最高位十段となった名人・ 三船久蔵がモデルと思われる五船十段を登場させたあたりもうまい。 外国人ボクサーとの賭試合や暴力団とのいざこざなど、大人の世界の 暗い側面も描かれている。青鬼の卑劣さは、大人の社会ではそれほど珍 しいものじゃない。第二部には癌で死んだ父を赤鬼に投げ殺されたもの と信じて、復讐を志す柔道少年も出てくる。影のある美少年の走りかも しれない。
「寺田ヒロオのマンガはホノボノした健全な児童マンガ」と評価する人 が多いようだが、『もうれつ先生』に限って言えば、世の中の仕組みを リアルに描いていて、私が貸本屋で借りて読んだからそうなのかもしれ ないが、劇画の影響を感じさせるのだ。
貸本の世界では、56年に日の丸文庫から『影』が創刊され大評判にな っていた。「劇画」という名称はまだ使わないまでも、それまでの児童 マンガとは違った、青年を主人公にして現実の暗い側面や恋愛も描くよ うな新しいマンガ表現が模索され、注目されるようになっていたのだ。 寺田ヒロオも友人のマンガ家・棚下照生などを通じて貸本マンガの新 しい潮流を知り、それに着目していたはずだ。劇画的なテクニックも取 り入れながら、子どもたちのために勧善懲悪を貫いたところに、寺田の 真骨頂を感じ、彼のジレンマも垣間見えるような気がする。
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