一酸化炭素中毒の事故に遭って脳の一次視覚野を損傷してしまい、モノが見えなくなったイニシャルDFという患者の記録を担当医が一般読者向けに書いたもの。 DFは何を見ても、どう見えるかについて答えることはできませんでしたが、色は認識できるほか、ハイキングコースを歩くことができたのです。医師はDFが視覚的な形の認知に関しての視覚形態失認の状態ではあるが、どうして運動システムに影響がないのかを調べます。
この結果、視覚には一般的な知覚表象を作りあげることのほかに、行為を制御するという働きがあることが、よりハッキリとわかります。この二つの機能は生物の視覚脳の進化の過程でつくりあげられましたとのこと。
視覚脳は腹側経路で視覚表象をつくり、背側経路では行為の誘導を行うという分業体制が敷かれているといいます(5章のまとめ)。また《知覚は受動的なプロセスではない。私たちはたんに、ある瞬間に網膜上に映っているものすべてを体験するわけではない。知覚とは、入力情報とこれまでの視覚体験から構成され保持されている鋳型とのたんなる照合以上のことである。私たちの「見る」もののの多くは、そこにあるものについてのもっともありうる仮説にもとづいた内的創造物なのである》という部分は、知覚表象について書かれたもっともラディカルなテキストのひとつだと感じました。