いわゆる“江夏の21球”ドキュメンタリーものを期待していると肩すかしを食う。その9回の攻防はあくまで1シーンに過ぎず、近鉄ファン・応援団員であった筆者が、1979年のシーズン&日本シリーズをスタンドからの視点で熱く見つめた一冊だ。
試合展開を追いながら、自分もスタンドで近鉄を応援しているかのように感じる臨場感とリアルさは、実際に応援旗を振っていた筆者の視点ならではのもの。決して客観的な分析ではないし、近鉄偏重の視点でもあるものの、ヘンに大上段に構えていないだけに、古くからの近鉄ファンなら必ずや胸に熱いものを感じ、共感を持てることだろう。
当時は報道されたものの、その後はほとんど表面化することのなかった広島での近鉄いじめなどもリアルに描かれ、同年シリーズのサイドストーリー的な一面も。また、随所に挿入される筆者と西本監督との親交も、西本イズムに共感するオールドファンには興味深いところ。
ただ、“大阪近鉄”に生まれ変わる以前の近鉄が“大阪の人気球団”であった頃を思い起こさせる点には、今となってはやるせない思いを感じてしまうのだが…。