読後感として最も強烈なのは、こういう経営者が今時どうにも見当たらないという悲しさだ。もちろん、財界人ならぬ身では、個々の経営者をよく知っているとはいえないが、石坂泰三という人の真骨頂は、政府嫌い、官僚嫌いにあると思う。単なる毛嫌いであれば意味はないし、そうした経営者は今も少なくないだろう。しかし、例えば昨今の経営者が政府批判はする一方で、景気対策は要望するなど、お上頼み体質が染み付いているのは、一般に個性的、リーダーシップに富む等の評価を受ける経営者であっても変わらない。石坂泰三は日本という国を愛したという。そうした彼にとっては経営もお国のためである。規模の拡大を指向するなど、彼の経営方針には一見時代遅れのように見えるものもある。しかし、株主重視とか、従業員を守るとかいった最近の経営にかかわる議論は、すべてのステークホルダーを抱合した「国」を視座に置いた石坂にとってはお笑いでしかないだろう。ほんの一昔前の話なのだが、実感としては明治期の時代小説を読んでいるに近いものがあった。