ヴィオールの名手サント・コロンブに入門を許された弱冠17歳のマラン・マレには師が選んだ、一切を捨てた孤高の芸術を理解できる筈もなかった。いやむしろ当時音楽家として成功する為の唯一の道であった宮廷音楽家への願望を頭から拒んだコロンブの方がよほど意固地であり、将来あるマレの才能を偏狭な自己の哲学に閉じ込めようとしたことの方が無理難題だったと言うべきだろう。それ故にマレのヴィオールを叩き壊してしまうシーンには、誰にも理解してもらえないことへのやり場のない自分自身への怒りさえ感じられるのだ。しかし晩年のマレは師の至った芸の境地を初めて理解する。そして自分が犯した過ち、つまりコロンブの娘マドレーヌを利用して師の奥義を盗もうとしたこと、彼女を死に追いやったことへの深い悔恨を覚える。
ラスト・シーンで師弟間の葛藤は昇華されるが、決してこの物語に晴れ晴れしい結末をもたらすものではなく、むしろ一種の虚しさを私たちの心に残す。将来の夢を賭けていた、一介の靴屋の倅でしかなかったマレにとって他にどんな方法があっただろうか。たとえコロンブの技法を会得したとしても、片田舎で燻ぶるだけの生活は彼にとって何の魅力も無かったに違いない。
アラン・コルノー監督の周到な準備による繊細かつ巧妙な演出も去ることながら、主役の4人に実力派の役者を配したことがこの作品を成功に導いている。因みにこの映画で若き日のマレを演じたジェラールの息子、ギョーム・ドパルデュは惜しくも2008年に37歳で亡くなっている。尚この作品は2007年にフランスのステュディオ・カナルからサウンド・トラック付のリイシュー廉価版として再リリースされた。勿論原語のみで字幕スーパーも無いが、日本でも復活されるべき名作だ。