著者の行きつけであった店について紹介した本です。ただ、著者が「いわゆる食べ歩きの本ではない。私の過去の生活と思い出がむすびついている食べ物や店のことを語ったものである」と書いているように、単なる店や料理のガイド本ではありません。その店の主や女将、従業員たちの、食材に対するこだわりや、お客への接し方等、要は彼らの生き様を綴った本といえばいいでしょうか。さらに、池波ファンにとって嬉しいのは各店について1枚、著者自身による挿絵が付けられている点です。また、著者の食エッセイの最後の作品であり、これまでのエッセイでおなじみの井上留吉や辰巳柳太郎等のひとびと、煉瓦亭やたいめいけん等のお店が総登場する、池波食エッセイの総括的要素があるのも見逃せない点ではないでしょうか。むかしの人の生き様を通し、物質的には豊かではなかったかもしれないけれど、精神的には豊かな時代があったんだなあとしみじみ思わせるエッセイ集です。