かつてニューヨーク近代美術館(MoMA)で働いた経験のあるアメリア・アレナスさんは、98年に『なぜ、これがアートなの?』を日本の読者向けに出版。それ以来、鑑賞教育に関する入門書を書き続けている。ただ彼女については、その活気のあるギャラリートークを抜きにして語ることはできない。同じ『なぜ、これがアートなの?』というタイトルの展覧会でそのトークの手法が紹介されたほか、彼女が主演するビデオも発売されている。本書は、そのような著者がこれまで考えてきたことや学んできたことをまとめたもの。「芸術はよろこびのためにある」という基本的な観点から、美術史中心の現在の美術館に批判的だ。そして、「初心者には美術史の知識は無用」とまで言っている。そんな彼女の発想はラディカルで新鮮だが、他分野に渡る重要な問題を一気に論じているため、全体にややまとまりに欠けているし、細部では説明不足などによって誤解を招く面もあるかも知れない。しかし、専門家でない一般の鑑賞者にとって大事な問題を、美術館側でなく鑑賞者の立場から分かりやすく論じた本は他にあまり例がなく、とても貴重な試みだと思う。