この作品の魅力は、自分を見つめ返す人々との交流だ。主人公の青年は、旅の途中女優のテレーゼと恋に落ちる。テレーゼも青年同様、自分の人生に何かしらの苛立ちや不満を抱いていた。青年は彼女の他にも、言葉を話さない少女やその少女の親代わりをしていて興奮すると鼻血を出す元ナチ政権将校の老人、ホテルの食卓で出会った詩人志望の太った青年など、自分と同じ心境の人々と遭遇し、旅の中でお互いに思想を共有していくのである。彼らが、それぞれの個性を出してゆくきっかけとなったのは、詩人志望の青年が叔父の家と勘違いして、自殺志願者の男の家に主人公たちを招きいれたところだろう。男は、特に孤独についての考えを主人公たちに投げかけてきた。彼の人生を通して行き着いた孤独論を、主人公は自分の心境と重ねて聞いていたせいか、青年と旅をしている人々の中で一番、男の話に興味を持って聞いていた。「孤独とは、表面の世界が作り出すもので、他人が自分を孤独だと感じて孤独は生まれる・・・」などという内容は、青年にとても響いていた様子だった。青年の旅は当初、他人を避け一人で孤独な旅で自分を見つめることが、目的であったのだから。それゆえ、他人によって自分の孤独が存在するとは、考えてもいなかったであろう。