行動トレース型ロボット「まるいち」を巡る一話完結型のSF風人情もののストーリーマンガ。主な主人公は、「まるいち」を開発したKAMATAの技術者・美月ななこと、そのモニター兼途中からKAMATAのアルバイトになる有里幸太だが、そこに何か訳ありの友人や会社の同僚などが絡み、「まるいち」を通して、人情ドラマが繰り広げられる。
「まるいち」というロボットは地味な感じではあるが、その実態はエンジニアから見るとテクノロジーの固まりのようなもの。その「まるいち」を世界に溶け込ませ、様々なドラマと絡めていくストーリー展開は見事。キャラクターの線は、少女マンガ系の柔らかいものだが、扱っている内容はれっきとしたSFだ。
読んだ後から知ったことだが、本作品の初出は、まだ一般の人には“インターネット”や“ケータイ”も縁遠かった1993年のこと。最終的に、それから2001年までの間、読み切りの形で数少なく登場した作品らしい。1話ずつに時間がかけられているせいか、その完成度や、内容は、2008年の今読んでも十分に楽しめるし、考えさせられる。美月のエンジニアとしての「まるいち」への愛情も伝わってくるし、ロボット「まるいち」が存在したなら、確かにこんなこともあるよねーと思える、絶妙のリアリティが秀逸だった。
ひとまず、この文庫版上下「まるいち的風景」では、単行本未収録の話や、書き下ろしの完結編も掲載されているが、読み終わった後の感想としては、まだ毎月「まるいち」の最新話が読めたらいいのになーと思えるもの。飛び抜けたおもしろさがあるわけではないが、「まるいち」のある世界にどっぷりと浸れる、個人的には久々の良作。出会えて、買ってみて、読んでひとときを過ごせて幸せな気分になれた作品です。